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イラク難民人道支援
 (シリア)


●出張報告書
 ・第1回
  2007.11.12 - 11.28

 ・第2回
  2007.12.06 - 12.07

 ・第3回
  2008.01.19 - 01.31


●初動調査報告
 ・初動調査報告書
 (JPF事務局)

 ・初動調査報告書(JEN)


イラク難民人道支援(シリア)

第1回シリア・ヨルダン事業調整、連携促進事業報告書
調査実施体制
1) 調査者:椎名規之JPF事業部員
2) 調査期間:11月13日(火)〜28日(水)
3) 調査地:シリア(ダマスカス)ヨルダン(アンマン、ザルカ)

今回の調査の目的
1) シリアにおけるイラク難民を取り巻く状況と必要とされている支援の内容について最新の情報収集を行う。
2) シリアにおけるNGO登録及びシリア政府・シリア赤新月社とNGOの管理・執行上の取り決めであるMoUの締結について、最新の状況を確認するとともにシリア赤新月社やシリア外務省、JICA事務所、日本大使館と連絡を取り、NGOの活動開始を支援する。
3) シリアにおける国際支援機関の現在の支援状況について情報を収集し、JPF加盟NGO を紹介することで支援活動開始後の協力関係構築の準備を行う。
4) ヨルダンにおけるイラク難民を取り巻く状況と必要とされている支援の内容について最新の情報収集を行う。
5) ヨルダンにおいて活動を開始している、もしくは活動を準備しているJPF加盟NGOと連絡をとり、活動状況を把握するとともにNGO間の連絡、事業調整、情報共有を促進する。
6) 在ヨルダン日本大使館やヨルダン政府関係省庁と会談を行い、JPF加盟NGO活動への理解を求めるとともに、継続した支援を依頼し協力体制を強化する。
7) ヨルダンにおける国際支援機関の現在の活動について情報収集を行い、JPF加盟NGOの活動を紹介することで協力関係構築を目指す。特に国際支援機関とJPF加盟NGOの間で情報交換を行ったり、IP(Implementation Partner)契約を結べるよう関係の橋渡しを行う。

日程

日程 場所 訪問先等
11月13日
(火)
日本発 移動
11月14日
(水)
ダマスカス着 移動
11月15日
(木)
ダマスカス
9:00 JICAシリア事務所
10:30 在シリア日本大使館
11:30 シリア赤新月社
19:00 シリア赤新月社総裁
11月16日
(金)
ダマスカス(休日)
8:00  JICAシリア事務所事業訪問(上水道修復)
16:30 JICAコンサルタントの方々から情報収集
11月17日
(土)
ダマスカス(休日)
9:00 JICAシリア事務所事業訪問(障害者支援)
11月18日
(日)
ダマスカス
10:50 UNICEFシリア
13:00 シリア外務省
14:00 UNDPシリア
15:30 UNHCRシリア
11月19日
(月)
ダマスカス〜アンマン 移動
13:15 JENヨルダン事務所
11月20日
(火)
アンマン
(国会選挙のため半日)
12:15 IOMイラク事務所
14:15 UNHCRヨルダン事務所
11月21日
(水)
アンマン
9:00 NICCO
13:00 心理社会的ケアWorking Group
14:30 NICCO、SCJ
16:00 UNHCR、NICCO
11月22日
(木)
アンマン
10:00 ヨルダン計画省(NICCO)
11:15 在ヨルダン日本大使館(NICCO、SCJ、KnK)
14:00 ハシミテ慈善協会
18:00 JICAヨルダン事務所イラク班
11月23日
(金)
アンマン(休日) 業務日報整理
11月24日
(土)
アンマン(休日)
9:00 NICCO事業視察(ザルカ)
11月25日
(日)
アンマン
9:30 UNDPイラク事務所
13:00 ヨルダン社会開発省
14:30 UNICEFヨルダン

11月26日
(月)

アンマン〜ダマスカス
8:30 NCCI
10:00 Caritas Jordan
13:15 ヨルダン赤新月社
17:30 在ヨルダン日本大使館
移動
11月27日
(火)
ダマスカス発
12:30 在シリア日本大使館
移動

11月28日
(水)

日本着 移動


調査結果:シリア

1)イラク難民の情勢

  • 10月1日から施行されたイラク難民に対する新しいヴィザのシステムは外交官、公務員、シリアで証明書を持つ学生やビジネスマンであることなど(9つのカテゴリーがあるとのこと)が取得の条件であり、大半のイラク難民にとっては取得が難しい。そのためシリアに流入するイラク難民の数は減少していると考えられ、現在シリアに滞在しているイラク難民も3ヶ月の滞在許可証を更新するのが難しく、不法に滞在せざるを得ない難民の数が増えていると予想される。しかし、国境付近で50米ドル支払えばヴィザが取得できるという情報もあり、シリアの物価水準が他の周辺国より比較的低いこと、シリア政府はいまだ難民の受け入れに対して寛容であるとの認識から流入は続くと考えられる。流入の場所はシリアの大都市のほか、ダマスカス郊外のパレスチナ難民のキャンプにもイラク難民が入っているとの情報がある。

  • シリアにおけるイラク難民の数は120万人とも150万人とも言われ、シリアの人口の10%にも及ぶためシリア政府も受け入れの限界に来ていると考えられ、比較的寛容であった難民受け入れにも慎重になってきている様子がうかがえる。

2)NGO登録とMoUの締結について

  • JPF加盟NGOがシリアで事業を実施するためにはシリア赤新月社を通じ外務省と3つの手続きをする必要がある。第一はNGO登録、第二はシリア国内における事務所や事業のための銀行口座の開設、シリア人スタッフの雇用などについて定めたMemorandum of Understanding(MoU)への署名、そして第三は事業ごとに作成し、承認を得ることが必要な事業内容を定めたプロジェクト・ドキュメントの作成である。

  • 現段階でJPF加盟NGO(JENとJPF)のNGO登録は外務省レベルで留まっている。外務省から日本のNGOの登録に関しては問題が無く、数日の内に書面でシリア赤新月社に連絡をするとの通知があったらしいが、11月27日朝の段階で赤新月社のNGO担当官に電話で確認を取ったところ、まだ連絡が来ていないとのこと。

  • JENは日本でシリア大使館から聞き取りを受けるなど、登録のための手続きに進捗がある模様。JPFの登録が完了しても、JPF加盟NGOはそれぞれ個別に登録をする必要がある。NGO登録後、MoUの締結に向けた動きと同時並行でプロジェクト・ドキュメントを作成し、時間的ロスを出来るだけ避けたい。

  • NGO登録を済ませたIslamic Reliefなどの8つの国際NGOはAdministrativeの事項をまとめたMoUの雛形が赤新月社を通じて外務省から送られてくるのを待っている状態であるため、雛形は完成したらしい。MoUの中には条件として事務所や銀行口座を赤新月社と共同で開設することが条件として入る可能性があることが想定されており、事業におけるNGOの活動の自由度や透明性のある会計処理などについて影響が出ることが懸念される。MoUの締結にはこれらの面を慎重に考慮する必要があり、必要であれば国際NGOの間で意見調整を行って交渉を行う必要性も出てくる。

  • シリア外務省や赤新月社はイラク難民だけに注目するのではなくシリアに裨益するような事業の形成、関係省庁からのニーズの情報収集を強調している。イラク難民のためだけのパラレルな支援構造を作るのではなく、communityを対象とした支援活動が政府との良い関係、信頼を得るために必要である。またシリア赤新月社と緊密関係を保ちつつ活動を行う必要性は否めないものの、医療支援についても他の医療機関からの情報収集の必要性や赤新月社の活動、特に会計管理について注意すべきである。

3)国際支援情勢のポイント

  • 国際支援機関ではまず自由にニーズ調査が出来ないことが事業形成のネックになっている。UNICEFによれば、現在活動を行っている学校やその付近で調査と称してニーズ調査を行っている状態であり、JICAもシリア政府から要請と地域の情報を得て事業形成をしている状況である。国連機関などの現在の支援状況などは以下の通り。

  • UNICEFシリア事務所
    Emergency Programme Coordinatorが9月より着任し、スタッフの増強と体制作りを行っている。シリアに対する支援資金が150万米ドルなのに比べ、イラク難民支援を視野に入れた緊急支援のための資金は1千200万から1千500万米ドルとなっている。支援内容は保健、教育、心理社会的ケアの分野などで、シリア保健省や教育省などと協議を行っている。
    保健の分野ではWHOやUNFPAと協力して6つの地域でクリニックなどに医療機材の支援を行っている。
    教育分野ではアメリカ政府やEU、デンマークからの資金で教材、机や椅子の支援など。学校修復や建設は考えてはおらず、UNHCRが対応するだろうとのこと。当面は学校のシフトを増やすなどで対応予定。2008年度も教育省を支援していきながら学校教育に関するコンサルティングやキャパビルなどソフト面での支援を考えている。
    現在までに4万5千から7万人のイラク難民の子どもたちが学校に登録していると考えられているが、難民全体の数から想定される子どもの数(30万人)から考えるとまだまだ少なく、今後アフガニスタンでのキャンペーンのような活動を日本のNGOとも検討していきたい。
    心理社会的ケアのニーズについては必要性が認められるものの具体的な活動にはいたっていない。

  • UNDPシリア事務所
    シリアにおけるイラク難民の多くはシリア人と一緒に都市部で生活しており、シリアのインフラ、社会サービスの恩恵を受けていると同時にシリアへの負担となっている。緊急支援には資金が集まりやすいものの、シリアの社会サービスを維持し、キャパシティをあげていくことが必要であり、社会開発の視点とそのための資金が必要である。
    UNDPの現在の活動の中心はシリアにおけるイラク難民の包括的な実態(ごみ処理、上下水道、医療などの生活環境)やニーズとシリアへのインパクトに関する8ヶ月間の調査である(10月20日調印)。調査報告書では現状と必要とされる社会サービスのギャップを分析し、それぞれの分野でどれだけの資金が必要であるか明確にしながらシリア政府が実施することのできるシステムの提言を行う。
    UNDPとしては調査活動のほか、シリア人への貧困者支援としてマイクロ・ファイナンスの事業やUNFPAとシリアの社会労働省と行っているSocial Welfare Fundの活用、Global Environment Facility (GEF)のSmall Grant Projectを使いコミュニティニに根ざした組織に直接支援する活動などを行っていく予定である。そこではKnow-howを積極的に提供し、組織を育てる視点を持っていきたいと考えている。
    最近大統領夫人の協力もあってシリアのNGOも少しずつ成長してきた。存在するシリアのNGOは“TRUST”というNGOのグループを組織したという情報もある。この組織もデザインやResource mobilizationにまだまだ問題があるが、UNDPとしてもその成長に協力していきたいと考えている。

  • UNHCRシリア事務所
    8月にJPFが調査を行った際の約2倍、総計13万6千人ほどがこれまでに難民登録を完了した。現在でもドゥマで1日6百人ほどが面接を受けており、移動式難民登録所を用い、ハッサケ県やカミシュカ県で登録活動を行っている。12月にはヘラゾール県に移る見込み。
    シリアでの難民登録は第3国への移住を視野に入れた面接・情報収集のため時間がかかっていたが、今後求める情報量を減らし、登録を増やす予定である。
    UNHCRの活動は徐々に難民登録の作業から難民たちへの具体的な人道的支援に活動の重点がシフトしており、11月16日にもWFPやシリア赤新月社と2回目の食糧配布を行った。現金支給、マットレスなどのnon-food itemsの配給なども行っている。現金支給は現在1千人ほどが対象だが、今後4千人から5千人を想定している。
    学校修復などは教育省に資金を出して行っている。IP(Implementation Partner)が不足しており、シリア赤新月社との政治的な駆け引きもあって難しい。

  • シリア政府・シリア赤新月社・イラク政府の活動状況
    イラクの一部地域の治安状況の改善により一部のイラク難民がイラクに帰還し始めているという情報あり。11月27日からイラク政府の資金による無料バス20台が600人ほどのイラク難民をイラクに帰還させる活動の試験運行が始まった。
    赤新月社はイラク難民の医師を雇用し、イラク人によるイラク人のための病院をアル・ザヒーラに開設した。そこには日本の緊急無償資金も使われている。

  • 日本大使館による草の根無償資金協力
    年に4〜5件。NGOというより国内や海外にいるシリア人からの寄付を資金源にした慈善団体に対するもの。診療所への医療器材支援の案件が多い。またミニバンを改造したモバイル医療診療所のニーズもある。医療器材関係は放射線機器に関する法律の問題などもあり、草の根無償でもシリア政府からの要請書をすべての案件で取るようにしている。

シリアにおける調査の総括と今後の活動提案
  • シリア政府は他の周辺国と比べて比較的イラク難民を受け入れているものの、人口の10%にものぼる難民に対する対応は次第に厳しくなっており、イラクの難民だけを支援するのではなくシリアの社会サービス・communityを支援するような支援活動が都市に流入するイラク難民を支援することがシリア政府が寛容な難民受け入れ政策を継続するために必要とされている。日本のNGOがまず政府と信頼関係を築くためにもこのアプローチは重要であると考える。

  • 日本のNGOが支援活動を始めるためにはNGO登録、MoUの締結とproject documentの作成・承認が必要であり、現在はやっと登録が完了しそうな様子である。書面で登録承認やMoUの雛形が赤新月社から届くまで、継続して赤新月社とコンタクトしつつ、日本大使館の協力を得て外務省へ協力を働きかけることが重要である。また登録が完了し、MoUが来た段階で内容を精査し、JPF加盟NGOと内容について協議するとともにproject documentの内容をつめることも同時並行で進めることが早期の事業開始には必要である。

  • 現段階では日本のNGOが自由にニーズ調査を行うのは難しいのが実情である。まずは赤新月社と一つでも事業を実施し、その中で実績・信頼関係を築きつつ支援地域のニーズを把握して次の支援活動につなげるような戦略が考えられる。これはPremiere Urgence(PU)などNGO登録を完了した国際NGOでも考えられている戦略のようである。

  • UNICEFとの連携については教育面でのソフト面での協力、学校に登録する難民の数を増やし学校へ送ることを支援する事業などで今後IP契約を結ぶことが考えられる。また今回UNICEFから教育に関する情報を得る機会を得たことにより継続的に連絡を取って事業形成にその情報を生かしていくべきだと考えられる。

  • UNDPとはそのシリアにおけるイラク難民の調査の結果(来年6月完成予定)を共有してもらい、全ての事業形成のための基礎情報とすることが望ましい。調査内容は包括的なものになる予定で、UNDP以外の国連機関、支援機関の支援活動形成のベースとなる可能性が高く、JPFか加盟NGOも事業形成に利用すべきである。

  • UNHCRとは今後イラク難民への人道的支援に関してNGO登録が完了しだい積極的に日本のNGOをアピールし、IP不足に悩むUNHCRと共同で事業ができるような提案をしていくべきだと考えられる。ヨルダンのケースなどを考えるに最初のフェーズとしては食糧やnon-food itemsの配給、communityに対する支援(医療支援、心理社会的ケアなど)などが考えられる。

  • 今回WFPとの会談が実現しなかったが、食糧配布事業におけるNGOとのIP契約の可能性などについての情報収集を次回の出張への課題としたい。

  • シリアのNGOはまだ能力的にも成長段階であるようだが、今後の協力関係を見据えた情報収集を続けたい。日本政府による草の根無償資金協力の案件に関しても、シリア政府との仕事の仕方として学ぶ点や日本の資金による支援活動の連携といった意味でこれからも情報共有をしていく重要性はある。

調査結果:ヨルダン

1)イラク難民の情勢

  • イラク難民の流入に関してヨルダン政府は神経を尖らせていること、生活費が他の周辺国より高いことなどからイラク難民の流入はシリアより少ない。先日発表されたFAFOのレポートでもそれが報告されている。難民の大部分がアンマンとその周辺に滞在しており、ヨルダンにいるイラク難民のほとんどがヨルダンを次の国へ移住する前の通過ポイントと考えているらしい。ヨルダン内でもアンマンから生活費の比較的安いザルカなどの近郊都市に移動する難民も存在する。シリアと違いパレスチナ難民のキャンプに流入しているといった情報は今のところはいっていない。

  • 裕福なイラク人の活動が目立つためヨルダン人からは「イラク人は金持ちだから支援なんか要らない。最近の家賃や物価の上昇はイラク人のせいだ」と非難され、ヨルダンにおけるイラク人のステイタスは決して良くはない。現実にはヨルダンで就労できるイラク人は限られているため、一部のイラク人を除きイラクの資産を切り崩して生活していたり、不法に労働をして(難民の20%ほどが労働してあるという情報もある)生活費を稼ぐしかない。

  • ヨルダンに滞在していると思われる15万人ほど(確認必要)の難民の子どもたちの内、まだ2万5千人ほどしか公立・私立の学校に行っていない。理由としてはコストが高いこと、長く滞在しておりお金があってプライベートスクールに行っている、親が政府に家族の不法滞在を知られることを怖がって子どもを学校に行かせない、Child Laborの問題、障害者や学習障害者は学校に入るのが難しい、英語教室のレベルが高くついていくのが難しいなどの理由が考えられる。

2)JPF加盟NGOの活動状況

  • KnK
    KnKの活動地域への視察と西本氏への面談は延期になり、事業を実際に目にすることができなかったため、次回の調査への課題としたい。ただ、西本氏はUNHCRの日本人職員と会って難民支援に関する情報を共有しているとUNHCRの日本人職員から聞くことができ、現地における情報収集の努力があることがうかがわれた。
    事業の立ち上げ式に関する情報も日本大使館に連絡し、広報の面でも活動していることが感じられた。

  • SCJ
    SCJは今回の出張段階でコンセプト・ペーパーを教育省と最終調整を行っている段階であった(11月26日に外務省に提出)。高松氏が事業開始の準備のためヨルダンで活動中。
    日本大使館にはヨルダン到着時に狩俣書記官に電話連絡を行っていた。コンセプト・ペーパーが未提出の段階での活動には注意が必要であることを認識しながら活動を行っているということである。

  • NICCO(NICCOD)
    ザルカにおける心理社会的ケアのワークショップが開始され、10人前後のグループに分けて午前と午後の2回(曜日によっては1回)活動を行っている。ワークショップではインドネシア人のファシリテーターを中心に子供たちが非常に活発に活動を行っており、ワークショップ時間外にも活動を心待ちにして事務所にやってくる子供たちも見受けられた。現在は3グループ、42人の子供たちがワークショップを受けており、最終的には50人になる予定。子供たちの構成はヨルダン人22人、イラク人15人のほか、エジプト人、シリア人が2人ずつとパレスチナ人が1人である。社会開発省からイラク人が50%を超える事業は問題であるとの指示が出ているとのこと。
    視察の段階でワークショップは2回目だったが、これまでにヨルダン人やパレスチナ人、イラク難民の子供たちが一緒に活動を行うことに問題はなく、仲間割れなどもないとのこと。Communityへの説明としては「豊かな人間性・ハーモニーを学ぶためのワークショップ」と説明している。
    NICCOによる事前調査の一環であるトラウマテストによると、イラク難民の子供たちは「侵入」に関する質問(悪夢をよく見るか、過去のつらかったことを思い出すか、大きな音に過剰に反応してしまうかなど)に対する数値が他の子供たちよりも高いという結果が出ている。しかし子供たちによって数値には差がある。NICCOはこのほかにもバウムテスト(木と果実の絵を描かせる)や風景構成法などを実施した。
    ワークショップには参加している子供たちの母親も見学に来ている。その中のイラク人の女性にワークショップについてどう思うか尋ねたところ、子供たちは大変楽しんであり、これからもぜひ通わせたいとのことだった。NICCOによれば子供たちが元気に活動する姿を見ることは両親にとっても良い影響を与え、両親に対するケアにもなっているとのこと。
    津波や地震などの自然災害と今回のような紛争によって影響を受けた子供たちに対する心理社会的ケアの違いについて、自然災害は住人が一様に被害を受けており、ケアに対する必要性の認識が高いこと、また活動に対する受益者のモチベーションが比較的上げやすいのに比べ、今回のようなケースは将来への不安、先行きの不透明感から受益者のモチベーションを上げるのが難しく、イラクで何らかの攻撃、被害を与えられた人々に対する復讐などを考える子供もいるとのこと。
    NICCOは現地NGOのFamily Guidance and Awareness Centre (FGAC)のスタッフを雇い事業を実施しているが、最近ANERAというアメリカのNGOがFGACに資金援助を行って心理社会的ケアを始めた。FGACはNICCOと作成した子供たちのリストをANERAと共有してしまったらしく、NICCOは別の子供たちのリストを作成することになってしまったとのこと。社会開発省からもFGACとは事業実施の方法に気をつけて活動をするようにと連絡を受けている。
  • 食糧供与事業に関して、NICCOは受益候補者リストを100人分社会開発省から受け取り済みで、候補者の家庭訪問を始めていた。供与自体は12月25日に行う予定。
    これからUNHCRのIPであるNGOとリストを比較し、食糧配布事業において受益者が重複していないか情報の共有が必要である。
    UNHCRから配られる食糧への不満(賞味期限が切れている物を配布している、イラク人にはなじみのない食料が入っており、逆に子供の多い家庭に必要なミルクが入っていないなど)という情報があり、NICCOは食糧配布のパッケージをイラク難民用とその他の2種類準備することを検討している。
    NICCOはザルカでIPを探しているUNHCRとIP契約について演劇を使ったイラク難民に対する心理社会的ケア事業を交渉中である。UNHCR、NICCOとJPFが3者でミーティングを行い、NICCOがIP候補として会議に参加できるよう、プロポーザルの書き方や予算の作成などについて協議を行った。現段階ではプロポーザルをUNHCRに提出し(現在予算書の修正中)、11月25日のIP候補者の会議に参加した。NICCOによると会議では地域での活動の調整などについて話し合われたが具体的な支援のことについてはあまり話されなかったとのこと。

  • 3団体共通
    11月22日に合同で日本大使館に挨拶に行き、活動状況などを説明した。3団体はこれからもお互いに事業や活動の経験などの情報を共有していくことで合意した。また時間が許せばそれぞれの事業を互いに訪問して活動を学びあうことも提案された。

3)ヨルダン政府のイラク難民支援に対する対応

  • NGOへの対応
    ヨルダン計画・国際協力省(以下計画省)では、現在「イラク難民を受け入れているホストとしてのNGO受け入れに関するPolicy paper」を作成しており、近日中に大使館に配布される予定である。この文書は今まで政府が口頭で各NGOに言ってきたNGO活動に関する決まりごと(登録、支援活動はイラク難民に限定することがないようにすることなど)について文書にまとめ通達するもので、NGOに対する新しい方針が示されるとは考えにくい。
    社会開発省としてはJICAや日本のNGOの活動に感謝しており、これからも良い関係を保っていきたいとのこと。支援活動にトレーニングの要素を入れて欲しいという要請があったのでNICCOの事業にはその要素があることをご説明した。社会開発省からはそのほかにも、ザルカに2つある大学とSocial Serviceの面からも連携して活動をして欲しいと要請があった。

  • 国際支援に関するヨルダン政府の対応
    計画省によると、政府は現在イラク難民がヨルダンのインフラや社会サービス、物価の上昇などに与えるインパクトについてのImpact studyを行い、近日中に結果を公開する予定である。先日公表されたFAFO(ノルウエーの調査財団)のヨルダンに住むイラク難民のレポートにおいて、難民の数がヨルダン政府のこれまで主張していた数より小さかったため(100万人ほどと主張されていたがFAFOのレポートでは45万人から50万人と推定)、国際支援が減るのを恐れたヨルダン政府がイラク難民のヨルダン社会における影響といった形で国際支援の必要性をさらに主張したい狙いがあると考えられる。

4)国際援助機関の動向

  • 国連機関などによる支援活動はシリアと比べて活発であるが、事業調整・連携などの面でまだまだ対策などが必要な様である。

  • 心理社会的ケアのWorking Group(WG)ミーティング
    Save the ChildrenとUNICEFが共同で主催するこのミーティングにはUNHCRなどの国連機関のほか、心理社会的ケアに関心のある国際NGOなど15人弱が集まり、事業調整や情報共有の場にしている。
    UNICEFによる心理社会的ケアに関心のある11団体へのアンケートの結果によると、NICCOやSCJが支援を行うザルカで活動を行っている・行う予定の団体は6団体ほど。しかし心理社会的ケアの専門家がいる団体は極めて限られている。
    それぞれの団体の関心事項がまちまちなため、WGで具体的に事業間を調整するような機能や具体的な連携などの成果は生まれていない。そのためpractitioner group(UNHCR・Care Internationalが中心)やreferral systemなどの分野で個別に Sub-committeeをつくり、全体WGに状況を報告するなどの案が出ている。

  • UNICEFヨルダン事務所(心理社会的ケア担当者からの聞き取りのため限定分野のみ)
    UNICEFヨルダンでは保健分野、特にメンタルヘルスの分野で現場のニーズと支援のギャップが存在していると感じている。UNICEFはこれから教育分野への支援とともに指導者を育成したり心理社会的ケアの分野に力を入れていきたいと考えている。
    ヨルダンは医療分野ではすすんでいるが心理社会的ケアの分野では改善の余地がある。PTSDという言葉が独り歩きしてしまうことがあるが、それに限らず基本レベルでのカウンセリングなどのケアが必要である。
    教育分野では、ヨルダンの学校は規律が厳しく、子供たちが自由に感情を表現する場がまだまだ少ない。UNICEFとしてもヨルダンの学校をソフト面で支援するメカニズムをつくりながら、子供たちが社交し、感情表現ができる場を作っていきたいとのこと。
    心理社会的ケアのWGにおけるNICCOの簡単な活動報告・情報共有などについて感謝している。日本のNGOに是非会いに来て欲しい、とくにSCJの方に会いたいということだった。これからも情報を共有したり、協力関係を作っていきたいとのこと。

  • IOM イラク事務所
    IOMヨルダン事務所ではイラク難民のアメリカやヨーロッパ、オーストラリアへの第3国移住支援を行っており、医療ユニットも持っているが、ヨルダンでのイラク難民支援活動の案件形成などはイラク事務所が行っている。
    IOMイラク事務所のヨルダンでの現在の主な活動はアメリカ政府からの資金援助による人身売買に関する調査と150家族を対象に行っている心理社会的ケアのためのアセスメントである。
    イラク国内では国内避難民を支援するため食糧配布やnon-food itemsの配布、事業のモニタリングなどを行っている。また国境管理の事業も実施しており、イラク南部では日本の資金を使っている。イラク北部ではPWJと共同で事業も実施している。また国外に流失した優秀なイラク人をイラクに戻って国の復興などのために働いてもらうための支援も行っている。

  • UNHCRヨルダン事務所
    UNHCRは国際、ローカルのNGOを含め22団体とIP契約を結び事業を実施している。事業内容としては難民に対する食糧配布、保健・衛生分野支援、医療、教育、家庭内暴力に関する女性の保護、障害者支援、現金配布など。法的支援も実施している。
    教育に関してはヨルダン政府と交渉し、9月の新学期からイラク難民も学校で教育を受けることが出来るようになった。教育に関しては、Non-formal education(教育省の管轄下職業訓練など)、home study(教育省の管轄下)、informal education(教育省の管轄ではない、カリキュラムは自由)の3つがある。
    医療に関しても今週中にヨルダン政府と合意が結ばれ、難民もヨルダンで健康保険に入っている人と同じレートで医療サービスを受けられるようになる予定である。UNHCRでは難民登録を行う際に必要な支援が認められた場合、支援内容によってそれぞれ担当しているNGOに紹介している。
    UNHCRでは障害者のヨルダンでのステイタスを向上させたいと考えている。ヨルダン政府の障害者に対するケアはまだまだ不十分で関心も低く、人々の中には偏見もある。UNHCRとしてはヨルダンの障害者に対する関心を高め、政府の対応の能力を向上させたい。
    女性支援に関してはニーズは高いが政府の対応は積極的ではない。家族の中で家長が職を失い権威が保てなくなり、不安や不満から家庭内暴力を起こしてしまうケースも考えられる。UNHCRはヨルダンのJordanian Women’s Union (JWU)をパートナーとし被害を受けている女性を紹介している。
    心理社会的ケアについて、まだヨルダンでの認識が低く、人々も心理社会的ケアの看板を掲げたクリニックには行きづらい。そこでIPであるヨルダン赤新月社では一般のクリニックに心理社会的ケア担当者を配置し、患者の頭痛などの原因が心理社会的なものだと診断した際、同じクリニックの中の担当者に回すようにしている。
    ヨルダン人の中でイラク難民はお金持ちのイメージがあり、近年の物価の上昇の原因とも考えられがちである。UNHCRの食糧配布の事業の場合、20%から25%はヨルダン人を含めるようにしている。UNHCRは今後、難民に対する支援をいくつかのCommunity Centreに集約し、難民が必要な支援を一箇所で受けられるようにしようと考えている。センターの場所と数に関してはアンマンに10箇所、ザルカに3箇所、その他イルビットなどを考えている。

  • Caritas Jordan
    2007年度においてはイラク難民に対して5つの事業を実施しているとのこと。主な分野はUNHCRと共同で行っている医療支援(+referral system)と、教育支援、食糧配布などである。教育支援ではSCとnon-formal educationを行っており、他に20のパートナーと2,000人あまりのイラク難民の教育支援を行っている。
    Caritasはアンマンに6つ、ザルカに1つのセンターを持っている。今後フフェイスに1つ、北と南に1つずつのセンターを作る予定である。
    2008年度は医療センターを100センターほどに増やす予定。International Catholic Migration Commission(ICMC)と共同で自己資金による食糧配布や学校の制服を配給する支援を引き続き計画している。

  • ヨルダン赤新月社
    赤新月社ではフランスの赤十字社やECHOの協力でPrimary Healthcare Centreを設立し、1日60人ほどの患者を診ている。
    UNHCRと共同で2人の医者とともに赤新月社の敷地内にクリニックを設け、1日100人から150人の患者を診ている。
    ドイツの赤十字社の支援でデンタル・ケアや心理社会的ケアの行えるクリニックも運営中。
    移動診療所をつくり、総数のイラク難民がかたまって住んでいる地域を回り診察や医療ケアの相談に乗っている。
    がん患者や高額の医療支援が必要な患者に関してはその都度UNHCRに申請し、特別な資金を要請したり、他の病院を紹介するシステム(referral system)を行っている。
    Community serviceとしてはクリニックの中に別室を設け、医師が心理社会的ケア・相談が必要だと判断した場合はクリニックの中でそちらに患者を回すようにしている。そうすることでまだまだ心理社会的ケアの認知度が低いヨルダン社会から患者が特別な目で見られることを少なくしている。
    1953年からヨルダンの女性たちに行ってきた職業訓練などをイラクの女性にも行っている。これはセラピーの一環でもあり、将来への不安を少しでも和らげたり、家の中に閉じ困ってしまう女性への支援でもある。ヨルダンではイラク難民が働くことは禁止されているが、ITや陶芸、美容、裁縫、手工芸などの職業訓練を受けた難民たちが、お互いにサービスを交換し合うことがある様子である。
    フランスのMSFの協力で外科手術に特化した支援を行っており、これまでに紛争で傷ついた難民など420人ほどが手術を受けた。またオランダのMSFの支援で心理社会的ケアなどのTraining for trainersを行っている。
    Islamic Reliefなどからの物資支援による共同で衛生キットの配布も行っている。限られて入るが食糧配布も行っている。また毛布や学校の制服・筆記用具、台所用品のセットも配布している。衛生用品の配布は、難民の衛生状態の改善の効果のほかに、彼らの尊厳を維持するために大事な支援である。
    International Relief and DevelopmentというNGO との共同事業では、60人のイラク人ボランティアをトレーニングし、communityの中に派遣して難民支援の情報を発信したり、健康に関する質問用紙を配布したりして出来るだけ多くのイラク人に難民支援を知ってもらい活用してもらえるよう活動している。
    Community CentreではIT教育、また無料でイラクの家族に電話できるシステムも持っている。幼稚園などで活動できる女性のための訓練を行っている。
    Safety First Centreで性教育やその情報を若者に提供している。Youth campも開催し、イラクに戻る難民がイラクで地雷の被害に合わないよう、地雷回避教育を行ったりFirst aidの訓練もしたりしている。
    支援活動におけるイラク難民の割合は大きく、ヨルダン人などの割合は5%から20%以下である。

ヨルダンにおける調査の総括と今後の活動提案
  • ヨルダンで活動するJPF加盟のNGOはこれからも日本大使館への連絡、相互の連絡体制を強化し、事業の情報を共有することで事業調整や連携を進める必要がある。事業の立ち上げ式などのイベントにも積極的に大使館やヨルダン政府の方々を招待し、事業への理解を深めていただくとともに良好な協力関係を築きたい。特にヨルダン政府はNGOの活動がイラク難民に集中してしまうのを恐れているため、誤解を解き、支援がヨルダンの人々にも裨益することをアピールしてイラク難民に対する政策を硬化させない工夫がいる。

  • 大使館と連絡を取り、NGO受け入れに関するPolicy paperやイラク難民のImpact studyの文書を入手し、ヨルダン政府のNGOやイラク難民に対する見方、政策を把握する必要がある。JPFは計画省をそのつど訪問し、NGO活動の報告を行って事業への理解と協力を取り付けたい。

  • 国連機関、国際NGOなどのイラク難民に対する支援は活発に行われているものの、心理社会的ケアにおいては支援機関の間で必要な調整や連携が行われているとはいいがたい。調整システム(WG)に積極的に参加し、情報を共有するとともに日本のNGOの活動をアピールすることが、今後UNICEFやUNHCRなどとの協力関係を築きIP契約などを結んでいくためにも有効であると考える。現にUNICEFは日本のNGOの活動に関心を持っており、UNHCRもNICCOと具体的な事業計画の話を行っている。分野別・地域的な国連活動の動きに注目し積極的にNGOとのIP契約の話を持っていき、同時に最新の国連の活動情報を入手していきたい。

  • 国際NGOの活動動向を観察し、国連機関のIPとしてどのように活動しているかを見るためにCaritas Jordanの活動は興味深い。医療分野における支援に関してはヨルダン赤新月社の活動は経験もありニーズに対応して多岐に渡っているため、参考にできることも多い。また彼らの支援活動の受益者はイラク難民の割合が極めて高く、イラク難民に支援活動の聞き取りなどを行うのにも適している。聞き取りを行った赤新月社の国際協力担当者は日本のNGOが活動を視察に来るのはいつでも歓迎だといっているため、関心のあるNGOには是非視察をお薦めしたい。


全体的な所感など
  • JICAシリア事務所からJICA本部のシリア・ヨルダン担当部署にも訪問して欲しいと要請あり。

  • イラク難民への支援活動という点から考えれば、この事業の担当者はシリア・ヨルダンでの事業のみならずイラクにおけるJPF加盟NGOの活動と国連機関の動きを知る必要がある。将来イラクの治安情勢が改善し、イラク難民が期間を始める際にはシリア・ヨルダンでの活動とイラクの活動をつなぐ必要性・事業調整・連携(イラク難民の追跡調査、イラクでの受け入れ活動など)が考えられる。イラク難民への支援活動には国ごとだけではなく、イラクと周辺国における地域的な調整・連携の取り組みが必要とされる。

以上


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